皎皎天中月
 城下町を出て、近くの山に入った。恵正は籠を背負い、素早く草や葉を摘んでいった。
「大先生、速いです」
 息を切らしながら、貞陽が着いて行く。

 見晴らしの良い場所に出た。大河や桟寧の城、そして城下町が見下ろせる。
「わあ、初めて見ました。火の見櫓があそこだから、宿居場はあそこ、だから、大先生のお宅はあそこだ」
 貞陽は水筒を手に、感嘆の声を挙げた。が、恵正は街を見ない。北西に広がる山々をじっと見ている。
 貞陽は恵正が見たいものを思った。
「……若先生、大丈夫でしょうか」
 そう尋ねてみる。内心を突かれ、恵正は苦笑する。
「大丈夫じゃ、と信じるしかあるまい。あいつは、水と草木があれば死なずに生きられるだけの知識と経験は持っておる」
「食べられる草木を良く知っているのですね」
「少し違う」
 恵正は近くに生えていた腰高の草を根こそぎ抜いた。
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