皎皎天中月
「北町の樺さんが、産気付いたから来て欲しいそうです」
「わかったよ。支度をしておくれ」
 あそこの嫁さんは細いから心配なんだ、と貫那は忙しそうにする。その夫らしき人物は、目をきょろきょろと動かしている。
 貞陽が付いていこうとすると、貫那が笑いながら怒る。
「貞陽、お産だよ。男の子のお前は留守番だ。女の子で手が空いているのは誰だい?」
 ばたばたと忙しい。
「では」
 会釈を残し、恵孝は別れて歩き出した。



「ああ、来てくれたか」
 恵弾は、青ざめた面持ちで息子を迎えた。番兵に導かれ、連れて行かれたのは簡素な作りの部屋だった。ただ、仕切り一枚隔てた先に大勢の怪我人がいるのだろう、唸り声と、血液と薬の混じったような臭いが届く。

「父さん、そんなに大変なの……」
 荷物を解く恵孝の手から、奪うようにそれを取り上げた。厳しい目をした父に、恵孝は息を飲む。

「来て早々悪いが、早く帰れ」
「忙しいなら僕も手伝います」
 否、と言う。
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