皎皎天中月

 それから、うさぎの導くままに進んでいる。草原のような所にいたと思えば、木立の中にいたり、沼地にいたりする。
 十分に眠れない疲れと十分に食べていない空腹からか、歩きながらおかしな夢を見る。――幼い自分が故郷で木登りをしているのだが、登っても登っても梢に辿り着かない。どれだけ登ったかと思って下を見ると、足元の幹が闇に吸い込まれている。競って登っていたはずの幼なじみがいない。このまま止まっていては、自分もまた闇に吸い込まれてしまうのではないか。
 と、頬に激痛が走り、反対側の体側に衝撃を受けて、意識が戻る。芳空に殴られ、地面に倒れてやっと、嫌な夢から覚めるのだ。「真っ青な顔をしていた。酒を飲み過ぎて吐く寸前のような」と芳空には言われた。
 かく言う芳空も、目の下を青くし、血の気のない肌の色をして、虚ろな眼でいることがある。叩いたり、水を掛けたり、殴ったりしながら進んでいく。そのうち、相手のことを気にする余裕が無くなってきた。うさぎの白く小さな背中だけを見て、黙々と追いかけた。気が遠くなりそうになると、芳空に声を掛けた。
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