皎皎天中月
「兵士の怪我や熱病は何とかなるのだ。今、こうやって薬も補充されたしな。ただ問題は……」

 恵弾ははっと息を潜めた。廊下を誰かがこちらへやってくる。その気配を伺いながら、声を低くして言葉を繋げた。

「しばらく忙しくなるかも知れない。うちは、お前と父さんがいるから何とかなるだろう。他所の者が来ても、誠意を持って診てやるのだ。お前の爺様を支えよ」
「何の話ですか」
「良いな」
 一方的に話を終わらせると同時に、恵孝の懐へ書状を入れた。
「これは」
「帰って読め」

 恵孝を、早く帰れと促す。合点のいかない恵孝の足取りは重いが、しぶしぶ父の意に従う。
 その時、部屋に兵士がひとり入って来た。

「杏恵弾」
 恵弾はふっと息を吐くと、前へ進み出る。そのまま兵士に続いて廊下へ出ようとした。

「と、その息子、杏恵孝」
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