皎皎天中月
第十一の月立ちの日 朝

 雨は夜に止んだ。暗い夜が明けると、辺り一面に霧が立ち込める白い朝であった。
 恵孝は洞穴を出て、近くの小さな泉で口を濯いだ。よく熟れた木の実が手の届くところにあったので手折る。

 昨日いた大木を後にし、北へ少し進んだところに、程よい洞穴があったのだ。すぐ近くでは水が湧いており、幸いと思い一夜を過ごした。

 火を焚いていたので、洞穴の中は暖かく、服もすっかり乾いた。予め集めて並べておいた木の枝も乾いており、新たな薪として火にくべる。焚き火の中に芋を入れる。待つ間に、先ほどの果実を切り分ける。木通と呼ばれる果実で、実の中央で無数の種が綿のようなものに包まれている。これをその綿ごと口に入れた。柔らかさと甘さで口の中が満たされる。種を除いたあとには、皮と厚い果肉が残る。食べやすい大きさに切り、串刺しにして焚き火に立てた。
 水と食べ物が近くにあり、曲がりなりにも屋根のある場所で夜を過ごした。嫌な幻も見ない。恵まれている。玉兎に会えたお陰かもしれない。

 進むのは今日で最後だ。
 恵孝はそう決めていた。今日一日は北へ進む。それで蛙に会う。それができなければ、明日の朝には帰ろう。玉兎には悪いが、これ以上この山にいるのは危険だ。この山を下りながら、行李いっぱいに薬草を詰んで帰ろう。祖父を助け、治療の腕を磨きながら、薬作りのできる場で、己の手で、蛇殺し草の薬に挑もう。そして父を救うのだ。
 
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