皎皎天中月
 兵士の言葉に真っ先に反応したのは、恵弾であった。
「息子は私に荷物を届けに来ただけだぞ」
「俺は連れて来るように言われただけだ」
 恵弾は言い返す言葉がなく、黙って兵士を睨む。兵士は視線を恵孝に移した。
「着いて来い」

 恵孝だけが訳が分からずにいる。恵弾がひどく、狼狽している。
 兵士は淡々と言う。

「章王がお呼びだ」




 城の内装は、奥へ行く程に豪華絢爛の色を濃くする。威厳はあるが、どこか歪な感じがする。何故だろう、と、恵孝は重い空気の中、廊下を歩きながら考えていた。

 隣を歩く恵弾は、堪りかねて声を上げた。
「一体、何の用があって息子を連れて行くのだ。私と御殿医の診立ては一致したのだ、それを高が数年しか人を診ていない恵孝が覆すとでも言うのか」
 兵士が立ち止まる。
「黙れ」
 手にしていた長槍を突く。シュン、と空を切る音が上がり、刃は恵弾の首筋で止まった。
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