皎皎天中月
昂礼は馬の手綱をまとめ、門に結ぶ。馬は静かにしている。
「……入らないのですか」
そこに突っ立ったままの暁晏に声を掛けた。『薬』と書かれた戸板が立てたままだ。
「ひっそりしているな。留守だろうか」
「ああ、開ける時間を少なくしたそうですよ。大先生一人では、忙し過ぎてしまうからって」
「医者を返しておくれ」 という、往来での貫那の言葉が暁晏の耳に甦る。それは、陛下に進言しても良いだろう。
戸の向こうには人気がない。左手にある、奥の母屋へ行く小道を進む。
昂礼はそこに残った。馬の背を撫でている。
「昂礼、聞いたぞ」
背後から声を掛けられる。杏家の向かい、布団屋の主の椙角路だ。また説教が始まる。自分がしたことは悪かったともうわかっている。が、この街の大人達は、一言言わないと気が済まない……と、煩わしく感じてしまうことへの申し訳なさも、昂礼は持っているが、それは飲み込む。
なぜ自分ばかり怒られるのか、そんなことを典医の暁晏先生も思っていたとは。
「……入らないのですか」
そこに突っ立ったままの暁晏に声を掛けた。『薬』と書かれた戸板が立てたままだ。
「ひっそりしているな。留守だろうか」
「ああ、開ける時間を少なくしたそうですよ。大先生一人では、忙し過ぎてしまうからって」
「医者を返しておくれ」 という、往来での貫那の言葉が暁晏の耳に甦る。それは、陛下に進言しても良いだろう。
戸の向こうには人気がない。左手にある、奥の母屋へ行く小道を進む。
昂礼はそこに残った。馬の背を撫でている。
「昂礼、聞いたぞ」
背後から声を掛けられる。杏家の向かい、布団屋の主の椙角路だ。また説教が始まる。自分がしたことは悪かったともうわかっている。が、この街の大人達は、一言言わないと気が済まない……と、煩わしく感じてしまうことへの申し訳なさも、昂礼は持っているが、それは飲み込む。
なぜ自分ばかり怒られるのか、そんなことを典医の暁晏先生も思っていたとは。