皎皎天中月
「そして俺の命は」
 兵士は槍を引き、廊下の先を差した。意匠を凝らした大きな扉が待ち構えている。

「あの扉の向こうにある、玉座におわす方の掌の上だ」
 章王。

「俺の鎧は槍を通さぬ。しかし、王の言葉には俺の鎧を砕く力がある」
 章王は決して、恐怖によって統治するような政治は行わない。ただ、命令は絶対なのだ。それが、人のいのちを奪うことであったとしても。

「だから俺は、命令に従う。だからお前達も、ひたすらに従わねばならない」
 兵士はそうして、唇を固く結んだ。再び歩き出し、杏父子も黙って従う。



 その扉の前に来たとき、待ち構えていたかのように扉が開いた。
「枋先生」
「恵弾。それから、ああ、恵孝だったね」
 中から現れたのは、枋暁晏、王やその家族を診る御殿医である。医者としては最高の栄達だ。しかし今回、彼や軍医の手に余る事態となったために町医の恵弾が城に呼ばれたのだ。
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