皎皎天中月
「暁晏さん、」
 旧い馴染みの恵弾は、名前で呼んだ。
「ずいぶんと、顔色が悪い」
「理由は解っていように、恵弾」
 深く皺の刻まれた顔に、何とも寂しげな笑顔を浮かべる。それから、恵孝の顔を見る。

「城下町に医者は、何人いる」
 暁晏の不意の問いに、恵孝は戸惑う。同業者の顔を思い浮かべて指折り数える。
「何人いても同じだ」
 暁晏は恵孝の手を自分の手で制す。

「誰も……」
「暁晏さん」
 恵弾の声には、暁晏とよく似たものが含まれている。

 暁晏は親子の顔を確かめるように見ると、さあ行こう、と呟いた。
「陛下がお待ちだ」

 枋先生や父親の背中は、こんなに小さかったろうか。恵孝は二人の医者の後を追い、緊張した心臓を持て余しながら思う。
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