皎皎天中月



 その日の夜、家族は何も言わずに食卓を囲んでいた。主のいない恵弾の椅子に、皆、何とはなしに目を向ける。
 恵正はじっと、章王からの下知が記された紙を睨んでいた。宵の内、城から放たれた伝令が持って来た物だ。恵弾の推測通り事が運ぶ。

 恭姫の死に至るを、止めよ。
 召集を拒めば、その家族を捕えよう。止められなければ、医者の命を――。
「馬鹿な王様だよ」
 丹祢が呟いた。
「本当に、馬鹿な王様だよ……」

 やはり恵弾が推測したように、一つの家から一人が出向する。杏家からは恵弾。家に残っている者には、何の咎めもない。
「富幸よ」
 恵正に呼ばれ、富幸は濡れた袖から顔を上げる。
「そなたの父上じゃったら、何とするかな」
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