皎皎天中月
 足を広げて腰を落とし、気合いを入れて金具を引き上げた。重い。重いが持ち上げられる重さだ。
 ――そうだ。あの頃はどうにもならなくて、それで忘れてしまっていたんだ。

 恵孝が板を取り外している間に、丹祢は手燭に火を移して持って来た。その明かりを頼りに、持ち上げた板をゆっくりと下ろす。なるほど丹祢の言う通り、床にぽっかりと穴が空き、地下への階段があった。
 埃が出るから、と丹祢は恵孝に鼻と口を覆う布を手渡した。自身は既にまとっている。

 階段は石造りで、履物を隔ててもその冷たさが伝わってくる。地下庫に人が入るのは随分と久しぶりのようだ。地上とは空気が違う。
 丹祢は壁の燭台に火を移して回る。少しずつ明るくなっていく。

「恵孝、燭台の上に通気口があるから、お開け」
 見れば、小さな引き戸がある。恵孝が腕を伸ばして届く高さで、祖母では踏み台が必要だ。
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