皎皎天中月
 丹祢は地図を取り出した。絵はわかる。
「ここが桟寧の城、町……日の出と共に町を出て、大河を渡り、北へ三日、東へ二日、もう一度大河を越えて、西へ四日、更に北へ六日」
 指は、ある山のふもとで止まった。名もない山だ。
「ここではないかも知れない。でもこれが行き方だよ」

「……おとぎ話と言ったのは婆様です」
「私だって、話を覚えているだけでまるっきり信じているわけではない。でもお行き、恵孝」

 地図を丸め、恵孝の持つ『深仙山記』と一くくりにする。そしてそれを、恵孝の懐に入れた。

「婆様、父さんがいなくて大変なんです。そんな伝説を信じて、家を出る訳にはいきません」
 恵孝は眉を下げる。自分が支えなければ。祖父母を、母を。

 けれども祖母は首を横に振った。
「行きなさい」
「嫌です。姫様はもう助からない、僕は救える命を救いたいんです」
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