皎皎天中月
 祖母は静かに息を吐いた。
「姫様がもう助からないのは、お前の爺様を見ていればわかるよ。あの人がああいう顔をしている時は、奇跡でも起こらない限り……どうしようもないと諦めた時だから」

 蝋燭の炎で影が揺れる。

「もう奇跡にすがるしかないんだよ。伝説の薬でも何でも、信じて求めないと助からない。助けたいのは姫様なんかじゃないんだ」

 そこまで聴いて、恵孝ははっと気付いた。丹祢は孫の頬を撫でた。
「私の息子、お前の父親を救いたいんだよ」

 恵孝はがっくりとうなだれた。目を瞑って思案し、地図と書を握った。

「ほかに、婆様は深仙山のことを知っていますか」
「豊かな山だそうだよ。水は澄み、植物は多彩で豊富。もちろん、体に悪い植物も豊富にある。それだけだ」

 それだけ。
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