皎皎天中月
 それでも、行かなくては。
 伝説の山、深仙山に棲む蛙の持つ、伝説の薬。それがなければ姫は助からず――父の命も。

 恵孝はゆっくりと頷いた。




 蔵を出ると、空が白み始めていた。もうすぐ日の出だ。
「必要な荷物は昨日、まとめておいたよ。あとはお前が必要だと思う物を持ってお行き。お前の爺様と母さんにはもう話してある」

 恵孝は眉を下げた。
「……菜音を引き取ると言った時の、母さんの気持ちがわかりました」
 丹祢は、くすりと笑った。
「さあ、急いで着替えておいでな」


「恵孝」
 台所の勝手口から、母が現れる。
「これ、お弁当。持っていきなさい」
 そう手渡された包みの、布越しに伝わる温もり。それから、とつぶやきながら、富幸は袂から別の包みを取り出した。

「これは、お守りに」

 薄い布包みを開いていくと、そこにはかんざしが入っていた。
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