皎皎天中月
『恵孝は、深仙山へ発った。当家の先祖恵有がかつて手にしたという、不治の病を治す薬を求めて。』

 不治の病を治す薬と口にしながら、明千は馬鹿馬鹿しいと思っている。そんなものはこの世に存在しない。存在しないから、人は病で命を落とす。
 聞いている杏恵弾は、瞼を閉じたままだ。腕組みをして、続きを待っている。

『深仙山に辿り着くには、日の出と共に街を出る。今朝、恵孝は行った。』 

「なるほど、ずいぶんと当てのない賭けに出たものだ」
 恵弾は目を閉じたまま呟いた。
「全く同感します」
 明千は言伝が以上であることを告げ、水を口にした。


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