皎皎天中月
「あら、今、呼びに行こうと思っていたのに」
手足を洗って、店と続きになっている母屋に入る。そこで母親の富幸と鉢合わせた。奥からは、朝飯の汁物の良い匂いが漂って来る。
「お祖父様は」
「今、上がって来るよ」
恵孝は店の方を振り向いた。恵正は干していた薬草が湿気を吸わないよう、紙を敷いていたのを外している。
「あなたも手伝ったら良いのに」
「爺様が先に上がれって」
朝ごはんですよ、と富幸が声を掛けると、気の良い答えが返ってくる。恵孝は食卓に向かい、配膳をしている祖母を手伝った。
祖父母と母と恵孝の四人で、朝食を共にする。
「恵孝、飯を食ったら山に行くぞ」
恵正は二杯目の椀を開け、富幸に差し出す。三杯目を食べていた恵孝は、目を輝かせた。
「昨日の雨と今日の朝日で、日風草の新芽が柔らかくなっている頃合いですね」
「これ、恵孝」
祖母の丹祢が恵孝をたしなめ、恵正にも言う。