皎皎天中月

登壁

 道がなくなった。
 ここまでは、たとえ大きくはなくとも進むことはできたし、進んでいるうちに道に出た。だが、これはどうだ。
 西へ西へと歩いて来た恵孝の目の前には、荒々しい山肌が、いや岩石の絶壁が立ちはだかってる。

 恵孝はじっとその岩壁を見上げた。いかにして進む。
 手立てがないと思ったらすぐに帰ってこい、と祖父は言った。だがそれは、父の命を諦めろということだ。祖母と母が悲しむ。祖父だって悲しまないわけがない。

 カラカラと音を立てて、岩壁から小さな土塊が転げて来た。見ると、白いうさぎが岩壁の途中にいる。よくよく岩壁を眺めてみれば、岩には凹凸があり、それを掴んでいけば登れぬことはなさそうだ。手立てはある。恵孝は岩に手をかけた。腕に力を込める。身体が持ち上がる。そして次の岩に手をかけた。
 うさぎは、恵孝を待つようにゆっくりと岩を登る。
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