皎皎天中月
 飴色の簪が覗く。何か花をあしらった、鼈甲の簪だ。
「そこの茂みに落ちていたんだ。いいものを拾ったぜ」
 母ちゃんへの土産だな、と芳空は布を畳み、そのまま背嚢に入れてしまう。
「おい、誰か人のものだろうが」
「そりゃあ人のものだろうが、こんな道の果てに落としていったんだ。見つけられただけ有難いってもんだろ」
「道の果てって」
 見ろよ、と芳空は今度は隊列の先を示す。霧が少し、薄らいでいる。
「何だあれは」
 誰の呟きかはわからないが、動揺は音もなく隊に広まった。
「壁だ」
 西へ続く道が途中で切れ、岩壁が立ちはだかっている。

 戻って来た物見が何か言っている。隊列を率いる上官達が、何やら話していた。
「どうすると思う」
 芳空は面白そうに尋ねた。
「知らん。言われた通りにするまでだ」
 言ってから、明千はまた顔をしかめる。――言われた通りにしてこの様だと言うのに。
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