皎皎天中月
 かくして、二人を残し隊は別の道を進んだ。定められた方角からもともと到達するであろう地点は割り出してある。迂回しながらその地点を目指すというのだ。

「言われた通りにするって言ったろ」
 登りながら芳空は話す。
「だから誘ったのか」
「違う、お前はどの道後悔すると思ってな」
 足の側面を岩に置き、次に手をかける場所を探す。明千は腕を伸ばして待つ。
「知ったようなことを言う」
「そりゃあ、知ってる」

 芳空は額の汗を肩口で拭った。
「姫を探し続けろと、陛下の伝言をお前が俺達に言ったときのあの顔をな。お前は知らないだろうよ、あのときの自分の顔を」
 なぜ、嘘でも捜索中止と言わなかったか、後悔は尽きない。暗い、激しい雨の夜。あの判断は、不必要に怪我人と病人を増やしただけだった。

「くそ真面目なお前にこれ以上後悔させないために、一緒に来てもらったんだ。死んだ婆さんが言ってたよ。人間、やったことではなく、やらなかったことを後悔するもんだって」
 芳空は乾いた声で笑う。明千はそれを聞き流して少し先まで登り、岩壁の割れ目に楔を打って命綱を通した。芳空を待つ。そして芳空が同じ高さまで来ると、すっと言い放った。
「それで、お前は何をしようと考えているんだ。芳空」


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