皎皎天中月

「恵正さん、今日は恵弾が宿居番なのだから、あなたか恵孝が診なくてはいけないでしょう。医者に休みはない」
 恵正は残念そうに唇を尖らせた。子どもではあるまいに、と丹祢に言われ、富幸と恵孝が笑った。

「大先生、杏の大先生」
 恵正を呼ぶ声がした。店はまだ開けていないため、家のの入口から呼んでいる。富幸が慌てて行き、書状を手に戻って来た。

「儂に何か用か」
「あのひとからです」
 富幸は、恵弾からの手紙を恵正に渡した。

「爺様? 父さんは何て?」
 食後のお茶を飲みながら、恵孝は尋ねる。
 恵正の顔が真顔になる。無言で手紙を恵孝に渡し、自分は店の方へ行ってしまった。

 恵孝は手紙を広げる。後ろから富幸が覗き込む。
「読んでおくれ」
 字の読めない丹祢の言葉に、恵孝は頷いた。

「本日未明、宮中に於いて大事あり。町方の宿居場にも医薬師の召集令あり、我は登城する。それにつき、以下の物を父上か恵孝に持参願う。」
 必要な薬草・薬剤が細かく記されている。手紙は続く。
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