皎皎天中月
「風邪かい?」
 恵孝はうさぎに触れた。両手でうさぎを抱え、まじまじと顔を覗く。「放せ」とうさぎは少し暴れた。
「僕も医者だよ。うさぎの診察は初めてだけど」

 何度も顔を前脚でこすっていたが、見ると鼻水が出ていることがわかった。
「鼻水と、くしゃみと、あとは?」
 うさぎは大人しくなる。本当にこのうさぎが自分のことを引き上げたのか、恵孝は甚だ疑問だ。
「それくらいだ」
「熱っぽいとか、体がだるいとかは」
「ああ、すぐに疲れるんだ」
「何か、体を冷やすようなことはしなかった?」
「思い当たるのは、満月の夜」
 うさぎはまた鼻を鳴らす。
「大雨だっただろ」
 あの夜だ。

「仕事が終わって、遊びに行くところだったのに、何の因果かあの大雨だ。しばらく雨に濡れていたが、それから鼻水が出る。格好悪いことに」
 うさぎにも仕事や遊びがあるのか。面白いことを言う。
「もう十日くらい経つけれど、ずっと続いているのか。大変だったね。普段、具合が悪いときはどうするのさ」
 恵孝は症状を抑えるための処方を考えているが、それは人間に効くものだ。
「丸まって、じっとしている」
「それが一番だよ。今回は、そうしなかったの?」
「その、遊びの約束が守れなったからな。それが気がかりで」
「律儀なんだなあ。ちょっと、一緒に見てくれないか」
 恵孝はうさぎを腕に抱えて温めながら立ち上がる。草むらに分け入り、目当てのものを探す。
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