皎皎天中月
かつん、と広源の杖が棚にぶつかる。作業場から一つ壁を隔てた薬品庫は通路が狭い。しかし、手早く人目をはばかるには適しており、恵弾は簡易な椅子を置いて広源を座らせた。
「幾つになっても娘は可愛いものだ」
ため息混じりに広源は言う。
「富幸が、義父上に何か」
「末娘というのは尚のこと可愛いもの。一人娘ならば尚更」
それは無論、章王と恭姫のことだ。黙ったまま、恵弾は頷く。
「……お前と富幸にも、娘があったな」
再び頷いた。
「富幸の姉や兄達も息災である。私は、己の子を失う親の気持ちは解らぬ。神に伺っても答えられぬからな」
恵弾は、長らく思っていた――それこそ、幼い頃から思っていたことを、神に仕えてきた義父に尋ねる。
「では、神とは何をなさるのでしょうか」
広源は、杖の先に目を落とした。
「それを、お前の父上に尋ねたことはあるのか」
「はい。まさに、『娘』を失ったときに」
「杏恵正は何と答えた?」
「幾つになっても娘は可愛いものだ」
ため息混じりに広源は言う。
「富幸が、義父上に何か」
「末娘というのは尚のこと可愛いもの。一人娘ならば尚更」
それは無論、章王と恭姫のことだ。黙ったまま、恵弾は頷く。
「……お前と富幸にも、娘があったな」
再び頷いた。
「富幸の姉や兄達も息災である。私は、己の子を失う親の気持ちは解らぬ。神に伺っても答えられぬからな」
恵弾は、長らく思っていた――それこそ、幼い頃から思っていたことを、神に仕えてきた義父に尋ねる。
「では、神とは何をなさるのでしょうか」
広源は、杖の先に目を落とした。
「それを、お前の父上に尋ねたことはあるのか」
「はい。まさに、『娘』を失ったときに」
「杏恵正は何と答えた?」