皎皎天中月
 広源は恵弾の話をじっと聴いていた。話が一区切りすると、ゆっくり頷いた。
「兆し、か」
「はい、それから恵孝はまた、医者として進み出しました。簪が恵孝の感情を揺らし、そして立ち直らせた……あの時に、あの簪が、あの恵孝に齎されたのは神の力と言えましょう。しかし、」
「しかし?」
「神は無口だ」
 広源は静かに息を吐いた。口元を緩める。
「義父上はお笑いか」
「いいや。その通りだからだ。神は無口だ、黙って我々人間の為すことをご覧になる。神がなさることは、風を吹かせ、日月を昇らせ、そして我々を見守ること。人間が祈らずとも、神はご覧になっている」
 姫の命を救おうと動いている人間がいる。神に縋っても変わらない。その人々のためになることをなされよ。
 広源が何と言って章王を諌めたかも、想像できるようだ。

「ほかに、何か手伝えることはないか」
 声を潜めて広源が言う。
「暁晏があの様子とはな。あいつは政を超えた立場から冷静に陛下に物申さねばならぬのに、分かっていない」
「暁晏さんを責めないでください。そうです、暁晏さんが義父上と話したくて待っています」
 きっと、先の相談をするだろう。広源は何と答えるだろうか。
 恵弾が広源を促し、薬品庫から出ようとする。広源も立ち上がるが、恵弾から出るべき話題が出ておらず、足は踏み出さない。
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