最後の着信メロディ
どうもそこは事務所のような部屋で、他にその部屋に人はいませんでしたが、

座っている位置とユキさんの言葉からして、彼がこのライブハウスのオーナーのようでした。

「ちょっとちょっとちょっと、どうしたの!何年振り!?」

「んー、8年くらいらしいよ」

らしいよ、といってこっちをチラリと見たのはきっと、私のおかげ(または私のせい)で思い出したということなのでしょう。

「そんなにかぁ…で、そのお久しぶりの理由は?もしかして演りにきたとか?」

「まさかー、もう人前じゃやんないってば」

ユキさんがケラケラと笑うとオーナーさんは溜息をついてお手上げのポーズをしました。

「ほんっと、勿体無いなぁ……うちとしてはユキちゃんの頼みならそこらのガキなんざどかしてでも演らせてあげるんだけど」

アゴに少しヒゲをはやしたその人は心底残念そうにユキさんを見つめ、やっと私の存在に気づきました。

「あれ、あー、わかった、そっちの子だな。ユキちゃんお墨付きのバンドとかそういう」

「ちーがーう。相変わらず早とちりというか、突っ走るねジュンペーさんは」

「あ、はじめまして、ミヨといいます」

私はおずおずと前に出て一応会釈をします。

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