ハリなしハリネズミ
「まぁ、ハリネズミは痛くて食えたもんじゃないから他のをいただくとしよう」
 クマはペロリと舌で口の周りをなめ回してゆっくりと近づいてきました。
 ガムがチャックに言います。
「早く得意の足を使って逃げなよ」
 ところが、チャックは
「足がすくんで動けないんだ」
と、今にも泣きそうでした。
 今度はバルバールに言います。
「少しくらい飛んで逃げられないの?」
「山道を歩きっぱなしで飛べやしないよ」
 杉の木の下で怯える二匹と一羽が逃げられないとわかったクマは、のそりのそりと右に行ったり左に行ったりしながら、ちょっとずつ歩み寄ってきます。
 チャックはふるえながらも言いました。
「ガムだけでも逃げて!」
 チャックを制してバルバールが言いました。
「ガム、チャックは小さいから連れて行けるだろう? オレがオトリになるから二人で逃げるんだ」
 ガムはやわらかいハリをブルンブルンと横にふり
「バルバールだけを置いていくなんて、できないよ!」
と、涙をこぼして叫びました。すると、バルバールがニヤリと笑って言いました。
「ガムがワニにおそわれていたとき、オレは助けなんて呼びに行っちゃいなかったのよ。本当はワニが怖くて見殺しにしようとしてたんだ。だから、これでおあいこだ」
 バルバールは大げさにムラサキ色のツバサを広げて言いました。
「よぅ、クマよ。食うならオレから食べてくれ。オレの体が一番大きいぜ」
 クマはバルバールに近づいて
「そうかい。それじゃあ、そうするよ」
と、大きな口を開けました。
「やぁ!!」
 そのとき、そのクマの大きな口を目がけてガムが体を丸めて飛び出しました。
「あいてぇ!!」
 すると、クマの口の中にたくさん穴が開きました。
 ガムのハリがかたくなっていたのです。
 クマはゴロゴロと地面を転がり、痛がって一目散に山を降りていきました。
「やったぁ!」
 チャックとバルバールは大喜び。でも、ガムはあまりうれしくありませんでした。
「―クマも痛かっただろうね」
 それから、三人は一緒に山を降りました。
< 10 / 11 >

この作品をシェア

pagetop