ジェンガたちの誤算
玄関のドアを開けると煮物の匂いがして、
「お帰りー」と40を過ぎたお母さんの声が聞こえた。
「ただいま」と自分だけに聞こえる大きさで呟き、
ローファーを脱いで部屋に直行しようとした私に、
「手洗い、うがい、しなさい」
とキッチンからお母さんが顔を出す。
その顔は歳の割には若いと思うけれど、
私のお母さんはお母さんであって、それ以外の何者でもない。
お父さんとお母さんが【そういうこと】をして私が生まれたわけだけれど、
例えば両親が離婚してお母さんに「彼氏」なんてものができたって、
あんなに涼しい顔をして「ママの彼氏がね」なんて、私には言えそうにない。