ジェンガたちの誤算
夕べ、ジャズバーで右手を挙げ、店員にチェックを告げた雛子がこちらに視線を戻し、
不意にモノをねだる子供のように遠慮がちに私を覗き込んで私に聞いたこと。


それは決して私に答えを尋ねている言い方ではなく、
ただ何かを確かめたい様子だった。

私が知らないと答えたとき、
それなら私からはまだ言わない、と言ったニュアンスの表情で雛子は黙った。

いい話ではないのだと思い、私は怖くなってその先を聞こうとしなかった。


その後悔は一夜明けて街中をようようと歩く私の影となって、
確実に着いてきていた。


もしかしたらとても大切なことなのかもしれない。

けれど、今はこの街の素敵さに頼って、甘えて、【旅】に集中しようと思った。
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