ワンサイド フィルム
「あれ?美咲、まだそのケータイだったの?」
「うん、」
「来夏と一緒に買いに行ったヤツだよな、」
「ああ、同時に変えたんだっけ?」
「そうそう。3人でケータイショップ回ったの。」
私の手の中には、濃いマゼンダ色のスライド式の携帯電話。
「来夏も同じ色だよね。」
「そうそう!メーカー違うけどオソロなんだよ。」
私は、その携帯電話を少し、傾けて、
「偶然だよ、」
と言った。
メーカーだけが違う。
同じマゼンダ色で、同じスライド式。
少しだけ違うデザイン。
秋葉原の激安ケータイショップで、それを選んだのはお互い偶然。
少し、色が剥がれかかったボディを見つめる。
使いづらくて仕方がないそれを私は使い続けている。
『おそろいになっちゃうね、でも、ま、いいか。』
そう来夏が笑って、私は何かを許されたような気がして嬉しかった。
そんなことで、「つながり」を意識するなんて、ばかばかしいと思っているけれど、どこか執着してしまう。
ずっと同じヒトを忘れられずに、
ずっと同じヒトを好きでいる。
「俺、美咲は来夏と付き合うんだと思ってたよ。」
立川の言葉は、他のヒトからも、何度も聴いていた言葉だった。
そして、私はいつものように答える。
「そんなの、考えたこともないよ。」