ワンサイド フィルム
ずっと同じヒトを忘れられずに、
ずっと同じヒトを好きでいる。
それは、相手が死んでしまったとしたら、
「純愛」になって、
切ない、泣ける、高等な文学になる。
映画になって、情感溢れる音楽と共に表現され、美しいモノへと変わる。
ずっと同じヒトを忘れられずに、
ずっと同じヒトを好きでいる。
来夏の笑ってくしゃっとなる顔、
少し太めの腕、
キレイな鎖骨、
細くてキレイな脚のライン。
口をぽかんと開けて、いつも何かを考えてる。
眠そうに目を細めて、ふと私の視線に気づいて、ふっと笑う。
それに、私は強烈にひきつけられた。
アタマがおかしくなりそうなほどに。
だけど、来夏は、それを許してはくれなかった。
『美咲がどうとかじゃなくて、俺、付き合うとか、したくないんだ。』
来夏が死んでしまったら、私はずっと好きでいることを許されたかもしれない。
でも、
来夏はまだ生きてるし、この携帯のボタンを数回プッシュすれば、途端に来夏に繋がる。
かなわないと、わかっていながら、
「好き」
だと言った。
負けるとわかっていた勝負だった。
勝負がつけば、忘れられる、そう思っていた。
ずっと同じヒトを忘れられずに、
ずっと同じヒトを好きでいる。
それは一緒なのに、私の恋は、純愛じゃなく、
あさましくて、計算高くて、
「考えたこともない」
なんて親友にもウソをつく。
後ろめたい感情を抱きながら、純愛の巣を抜け出した。