ワンサイド フィルム
3.小悪魔
『俺、美咲といると楽。』
『何ソレ。』
『だって、美咲、大人でしょ?』
少し前の、サークルの飲み会で、来夏が隣に座って、私にそう言った。
「美咲といると楽」
私は勝手にそれを特別な言葉だと思い込んでいた。
私は、うぬぼれるワケじゃないけれど、来夏と同じように、異性から安っぽいアプローチを受けることが多かった。
だから、来夏の気持ちがわかってた。
追われると逃げたくなるのは、私も同じだったから。
度重なる女の子からのアプローチを曖昧に笑ってかわす。
そして、誰とも極端に近づこうとはしなかった。
来夏についたあだ名は『小悪魔』だった。
それって、普通は女の子に使うんじゃないの?
美咲みたいなさ。
来夏はそう言ってまた笑った。
「俺、美咲といるとラクだよ。」
少年のような顔。
来夏は、また私に勘違いをさせるつもりだ。
でも、舞い上がったりはしたくなかった。