37℃ 【短編】
階段を2段飛ばしに掛けあがり、改札を出た所で、あの人に近づいた。



「…すいません!!」


あの人が振り返った。


私は、ハァハァと息が切れながら、ストラップを差し出す。


「すいません、これ落としませんでした?」


あの人は不思議な顔をしながら、視線を私からストラップへとゆっくり移した。


「…あっ!?ヤベ、俺落としてたんだ。」

そう言ってポケットを触る。


良かった。やっぱりあの人のだったんだ。



「ありがとう。これ無くしてたら、本当ヤバかった。本当ありがとう!!」


あの人は、満面の笑みで私にお礼を言った。
息切れ中の私には、その笑顔は眩しすぎる。



「急いで届けてくれたんだね。ありがとう。」



「そんな、全然大丈夫です!!あの…これ、どうぞ…」


ストラップを渡す。

これを渡したら、これで終わりだ。

今度いつ話せる?
ううん、今度いつ話しかけられる?



最後にまた「ありがとう」と言って、あの人は歩き出した。



このままでいいの…?
このまま終わっていいの…?
< 31 / 33 >

この作品をシェア

pagetop