「私」にはなかった「モノ」【実話】
「アユミさん、実はね。教室にはもう行かなくて良いんだ。」

「なんで?」

「行けないだろう?」

「うん。行かないよ。絶対。」

「でも保健室は嫌だろう?」

「うん、保険医嫌い。」

「じゃあ相談室は?」



相談室。

前にも何度か行った事がある。
今はさわやか相談員のマツダさんがいる。
悩みがある生徒が相談に行く部屋だ。
別に相談に行った訳ではないが、教室で給食が喉を通らなかった私は相談室で食べていた。
それだけだ。



「相談室?マツダさんの?」

「そう。」

「…相談する人以外来ないよね?」

「大体はね。アユミさんの嫌いな人はほぼ来ないと思うよ。それに、行ける時だけ行けばいい。」

「じゃあ行く。」

「そっか。じゃあ着替えてきて!ほら、早く!」



妙に嬉しそうな顔をしていた。

担任の先生にはお世話になっている。
これまで断ったら可哀想だ。
それに、行っても苦じゃない。

着替えて準備をした。



「あ、教科書とか全部持っていきな。」

「なんで?」

「相談室に置いておけばいいじゃないか。」

「そっか。」



教科書を全部詰めた。
ノートも全部詰めた。

そして、先生の車に乗り込んだ。

車は10分程で学校についた。
先生について廊下を歩いていく。

学校のざわめきが私の頭に痛みを与える。

別に誰かが私の悪口を言っている訳ではない。
ただの条件反射だ。

真直ぐ相談室に入った。
先生が気を使ってくれたのだと思った。
椅子に座って待っているように言われた。

大人しく待っていると、奥の部屋からマツダさんが出てきた。



「あ~アユミちゃ~ん。久しぶりだねぇ?元気にしてた?」

「うん。元気だよ。マツダさんは?」

「うぅん、マツダさんねぇ、最近ちょっと疲れてるかなぁ?」

「ふぅん。」



マツダさんと話をしていると、先生がやってきて、たった一言言って去っていった。




「今日からここがアユミさんの教室だな。うん。」

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