「私」にはなかった「モノ」【実話】
年賀状の中には事故と呼ばれる、住所が間違っていたり既に転居したりしている物がある。
それがたまると私達バイトではわからないので、職員さんにわたす。



「すみません、これ事故分ですけど…」

「あ、はいはい。」

「お願いします。」



少し慌てた様子で手元を隠した彼は誤魔化すように笑って返事をした。
きっとサボっていたのだろう。なんとなく可愛いな、と思った。

そのせいか、初めて彼に笑顔で返事をした。

愛想笑いくらいすれば良いのに、いつも気分の沈んでいた私はそんな余裕もなかった。
だけど、今日は自然と笑顔になっていた。

そのまま仕事を再開する為に振り返ろうとした時、彼に肩を摑まれた。



「あ、そういえば君名前は?」



…名前は見やすいところに名札のバッチをつけている。

彼には見えていないのだろうか。
それに…名前を聞くならまず自分からだろうと思った。
だから少し虐めたくなったのかもしれない。

でも、私の顔は笑っていた



「バイトは皆名札つけてるんですよ?」



名札のバッチを指差すと、そうなの?と言って彼はバッチを覗き込もうとした。

けれども私はバッチを隠してしまった。



「職員さん、名前を聞くならまず自分からですよ?」



少しからかったつもりだった。

すると、自分の胸のあたりをみて、照れくさそうに首元に手を入れた。
制服の中から首に下げるタイプの名札を取り出して、私に見せつけながら言った。



「どうも!アキラです!」



それが彼の名前を知ったきっかけだった。
私も名乗り、今日は少し変化があって面白かったと思った。



明日も面白いと良いな…
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