「私」にはなかった「モノ」【実話】
料理の上手な彼だった。



「そんな事ないと思いますよ?俺も男ですけど、バレンタインに女の子からチョコレート貰ったら嬉しいですし…」



この人は相当モテる。
料理も出来るし優しい。
それに顔も良い方だと思う。
バレンタインには料理教室に来ている奥様達にたくさんチョコレートを貰っているし、知らない子からも貰うらしい。

その時期彼の部屋はチョコレートがたくさんある。
一日に全部は無理でも、少しずつちゃんと自分で食べているようだ。



「そう?」

「えぇ。それに、バイトでお世話になったんでしょう?お礼と言うか、挨拶にでも渡したらどうですか?」

「そっか。どうやってお礼しようか考えてたんだ。なら中途半端な物は作れないなぁ…チョコレートってどうやって作るの?」

『えっ!?』



みんながこちらを向いていた。


悪戦苦闘しながらアキラさんに渡すチョコレートを作った。

完成したのは夜中だった。
何度失敗した事か…
友達が根気強く付き合ってくれたから出来たのだと思った。
完成したチョコレートを黄色の袋と黄色とオレンジのリボンでラッピングして、机の上に置いて一休み。



「よく頑張りましたね。きっと喜んでもらえますよ。」

「だったら良いけど…迷惑にならなければ良いなぁ…」



大きな欠伸をして机に突っ伏してみた。
暖房がきいていて暖かい部屋の中で、この体制はなんて心地良いのだろう…
うとうととしてしまっている。



「あれ?寝ちゃいましたか…」


まだ…寝てはいないよ…
寝そうだけど…


「ま、これだけ頑張って喜んでもらえなかったらそんな男と遊ばせる訳にはいきませんね。貴女の事は自分の子供みたいに思っているんですよ?心配しているんですから…」



うっすら聞こえた嬉しい言葉に、自分の顔が笑っている事がわかった。
頭に大きくて暖かいものが乗った。

きっと彼の手だ。

私が落ち込んでいたりすると、よく撫でて慰めてくれた7歳年上の友達。
彼ほど優しい人もあまりいないだろうな、と思う。
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