「私」にはなかった「モノ」【実話】
私が煙草に火をつけると、彼がポケットをあさっている。

ライターがみつからないらしい。

次第に慌ててきて、さすがにこれ以上ほうっておいたら可哀想だと思った。
ライターの火をつけて、彼の前に差し出した。



「どうぞ?」

「あ、有難う。」



そのまま彼が火に煙草を入れて、息を吸う。
火がついたところで彼の安心した顔。

可愛い人だと思った。

たかが煙草の火にこんなに必死になるなんて…
気持ちは分からなくもないけれど、そんなにほっとした顔をする程の事なのかな?

自然と顔が笑っていたらしい。

彼がこちらをみて不思議そうな顔をした。



「どうしたの?」

「あ、いえ、可愛いなぁ~と思って…」

「え?猫でもいたの?」

「いえいえ、アキラさんが…」

「俺!?可愛いって…」

「いえね、そんなに必死にならなくても…煙草…火くらい言ってくれればお貸ししますよ?」



私が笑うと、彼の顔が赤くなった。
本当に可愛い人だなぁ…
よほど恥ずかしいんだろうなぁ…



「俺そんな必死だった?」

「はい。」

「あはは…あ、そういえば、随分キツイの吸ってるね?くらくらしない?」

「前からこれなんで…これ意外に煙草知らなかったんです。友達にもらって吸い始めたんで…」

「未成年なのに悪いんだ。」

「あははは、そういえばアキラさんっておいくつなんですか?」

「25だよ。」

「えっ!?」



20歳くらいだと思ってた…

彼の爽やかな笑顔から香るケントの控えめな香り。
それを含んでも20歳…いってて22歳までだと思う。
でも彼がそう言うのだから間違えないだろう。



「どうかした?」

「いえ、もっとお若いのかと…」

「若くみえる?」

「はい。ほんと言うと自分より2,3上くらいかと思ってました。」

「え~それじゃまだ十代じゃん。」

「そう思って20歳くらいが妥当な予想かと思ってたんですが大ハズレです。私あんまりはずした事ないのにな。」

「へぇ!じゃあ俺が始めて?」

「かもしれません。」
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