「私」にはなかった「モノ」【実話】
そんな小さな幸せも長くはなかった。

夏休みが終わった。

また足取り重く学校へ向かう9月4日。
数日前から学校が始まり、やはり変わらないクラスの空気に嫌気が差していた。
そんな私を姉が見て不思議そうな顔をした。
私にはいつも優しい姉だった。



「アユ、今日は学校行く前に寄り道でもしていかない?」



家を出てすぐの事だった。

姉は母に気に入られていて、先生にも気に入られていて、手伝いもよくする人だ。
だが、たまにこういう事を言う。
気まぐれな姉だ。
私はこんな姉が好きだ。




「いいよ。どこいくの?」

「上原寄ってお菓子買って…外れの方にある橋の辺りに行こう。」



姉の言う通りについていった。

上原酒店は酒屋だが、お菓子やジュースも売っている。
そこでビスケットを買って、いつも通るT字路を逆に曲がったところにある小さな橋までやってきた。
この辺りは田舎なので、田んぼが多く、拓けている。
だが、民家も少ないのであまり人目には触れない。
そこで姉と二人、1時間目授業を放棄してビスケットを食べた。



「最近どうよ?アユはさ。」

「ん~…まぁまぁ…」

「元気ないよ?最近さ…またなんか嫌な事でもあった?」

「ん~…いつも通りかな。いつも通りが嫌なんだ。学校って行ってなんになるの?」



姉が黙り込んだ。

学校が好きな人はいるのだろうか?
学校に行ってなんの意味があるのだろうか?
いつも疑問に思っていた。

よっちゃん、と呼ぶと返事をしてくれる姉。
ヨシミという名前からか、母はよっちと呼ぶ。
あまり口数の多い方ではないよっちゃん。
だからこそ、相談できる。
よっちゃんは人にぺらぺらしゃべらないからだ。

それに、まともに話を聞いてくれるのはいつもよっちゃんだけだった。
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