わたあめ雲の下で…



…桜井悠貴くん。

好きな食べ物はメロンで、嫌いな食べ物は玉ねぎ。
絵を描くのが趣味で、テニスが上手。
だけど部活は吹奏楽で、担当はサックス。
好きな事は、空を見る事…。

私が把握している彼の情報はこれだけ。
多分、これ以上の事を知るには友達という領域に踏み込まなければならないから。



「ゆーくんって、ぼーっとしてるよね。ちぃはアイツのどこがいいの?」
「どこって…。綺麗だよね、桜井くん」


リクは瞬きをして私を見た。
私、おかしい事言ったのかな。


「綺麗?」
「うん、綺麗」

ぼんやりと見つめていると、振り返った彼とぱちりと目が合った。
慌てて反らして、立ち上がる。


「…トイレ」
「え?」
「トイレ行ってくる!!」

少し赤い顔を隠すように、教室を出た。


中学2年。
“恋愛”と言うには躊躇われるほど、不器用で億劫な私の感情が芽生えはじめた、春。


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