【束縛―ソ・ク・バ・ク―】
【5月】
多恵子のパソコンの作業は慣れないせいか、亀の歩みのようにのろく、
資料データ作成は普通なら20分位のところを一時間位かかっている。

その間にも、

「あの、篠原さん・・・。」

と声を掛けられ、僕の仕事もよく中断させられる。

しかし僕の根気は思ったよりも続き、今のところ僕なりに優しく
指導している。



 ある日の残業の夜、多恵子が

「篠原さん、帰宅したら電話してもよいですか。」

と聞いてきた。

「いいけど。でも、話したい事なら今話してもいいよ。」

・・・どうせ2人で残業しているんだし。

「あの、電話したいんですけど。

家族や彼女に気を使いますか?」

僕は1人暮らしだし、恋人とも7ヶ月前に別れていた。

僕たちは電話番号を交換した。


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