【束縛―ソ・ク・バ・ク―】
【6月】
僕たちの支社の服装はカジュアルだ。
何かあってすぐ営業に行けるようスーツ等はロッカーに置いてあるが、
基本的に内勤の服装にはこだわっていない。

彼女はいつもブラウスやカットソー、下はチノパンやロングスカートで
化粧も薄く、髪は黒に近い茶色のショートヘアー。

いわゆる地味な容姿だった。



ある時、本社の部長より連絡があり多恵子が急に営業に行くことになった。

「取引先が川村君でないと話しにならないって、
本社の新営業マンにクレームが。
大手なのでこの場をうまくまとめて欲しい。」
との事。

支社長も本社の部長命令にかなり緊張している。
多恵子は「はい。」と答え席から立ち上がる。
他の社員もこの事態の多恵子に視線が集まる。



「篠原さん、お願いがあります。
大森興産の最新の資料データ・社長個人のデータ・それと奥様のデータ、
例えば最近の趣味とか習い事とか、用意してもらえますか。
私は15分後に出かけます。」 

「OK。」

僕はまるで本社にいるような気分になる。



15分後、更衣室から多恵子が着替えて入ってきた。
僕を含め支社の人間が唖然とする――。
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