Addicted to you
 私がプールに向かって歩き出すのを確認すると、瀬戸内さんはチェアーに腰をおろし、さっそく本を開いていた。

 1人で泳ぐのは味気なかったけれど、瀬戸内さんの邪魔をしない約束だったし、上半身とはいえ、成人した男性の裸を見たことがなかった私は、水着姿の瀬戸内さんがまともに見ることが出来ない。
 恥かしさに耐えられず、プールで遊びながら時々瀬戸内さんの様子をこっそり見るぐらいしか出来なかったのだ。

 休憩時間になって波が止まるようになるまで泳いで遊んでいた私は、やっとプールから上がって戻ってきた。
 そこで、瀬戸内さんがうたた寝をしていることに気付く。

 本を胸の上にのせ、規則正しい小さな寝息が聞こえ、胸が上下し、あどけない表情で眠っている。

 私は音を立てないように気を使いながら瀬戸内さんの横にあるチェアーに座った。
 テーブルにはすっかり氷が溶けてしまった飲み物が置いてある。

 グラスについた汗が外の光を受けて反射し、瀬戸内さんの顔に光の影を落とす。
 私はそれを痺れるような感覚で見とれていた。

 瀬戸内さんと出会ってまだ3日だ。
 それなのに瀬戸内さんが好きで、たまらなく苦しい。
 胸が押しつぶされるように苦しくて、なぜか涙が私の見ている瀬戸内さんを揺らす。

 この気持ちはどうすればいいのだろうか?

 不器用な初恋。
 自分の気持ちを持て余し、溢れる気持ちに翻弄されている自分を、今も複雑な気持ちで思い出すことが出来る。

 それからの私は、不器用なぐらいストレートに体当たりするだけのアプローチ。

 意外と抜けていたりするところがあったり、子供みたいに負けず嫌いな面があったり、瀬戸内さんを知れば知るほど、一緒にいる時間が増えるにしたがって、私の気持ちが深くなっていった。

 ここだけの出会いにしたくないということだけが私の望みだった。
 東京に帰っても、瀬戸内さんと逢いたいという想いだけが私を突き動かしていたのだ。

 この恋を高望みだと決め付けた歪んだ心が、瀬戸内さんとの関係を歪めたものへと変えてしまった。
 それを私は今でも後悔している・・・・・・・・・・。
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