Addicted to you
「無くさないように大切にするね」
「鍵を渡したからといって、無理に家事をする必要はない。果穂は俺の家政婦じゃないんだからな」
「はい。でも、好きでしているこ・・・」

 次の瞬間、言葉を続けることはできなかった。
 初めての触れるだけのキス。

 異性とキスするのは初めてだったけれど、それより相手が瀬戸内さんだったことが嬉しくて。

 すごくドキドキが止まらなかった。
 忘れられない記憶。

 はっきりとした言葉はなかったけれど、瀬戸内さんが態度で好意を示したのはこれが初めてでもあった。

 それからしばらくして本当の意味で恋人の関係になった後、瀬戸内さんをやっと海さんって呼ぶようになった9月頃には、殆ど半同棲状態になっていた。

 とにかく瀬戸内さんが好きで、好きでどうしょうもなくって、それだけが私の頭の中を埋め尽くし、とにかく毎日嬉しくって、幸せで、海さんの傍にいられるなら他に何も望まなかった。

 そんな幸せの中、それでも私はほんの少し不安だった。

 それは海さんがまったくと言っていいほど、私に興味を示すことがなかったからだ。

 私が昼間何の仕事をして、今まで何処に住んでいたのかも、海さんは知らない。
 だって、何も聞いてくれなかったから・・・・。

 そんな海さんに、私も自分から話すことはしなかった。

 もともと自分のことを人に話すのは苦手だったし、私が海さんのことを知っていればよかったから。

 恋人同士の関係になれても、海さんは私を好きだと言葉にして言ったことはない。
 一方的に私が好きなだけの片思いと変わらない状態でも私は構わなかったのだ。

 ねだればキスもしてくれたし、出張から戻ってくれば瀬戸内さんから私を求めてくれたりした。

 自分と同じだけ愛して欲しいなんて望まなかった・・・。
 ただ、私をそばにいる事をゆるしてくれるならそれで良かったから。
 私の望みは海さんの傍にいることだけだったから・・・・・・。

 あの時まではそう、思っていた・・・・・・。
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