Addicted to you
 海さんの前に立つ女性に視線が吸い寄せられる。

 ブロンドのスレンダーな美人が、海さんに向かって微笑みかけ、海さんも滅多に見せない笑みで返していた。

「手続きしましたよ」
「ありがとう。ね、部屋は景色のいい所でしょうね」

 そんな会話がハッキリと聞こえてくる。
 私がすぐ側にいるのに、海さんは私に気付くことなく、ブロンドの美人さんと2人でエレベーターの所へと歩いていく。

「当然です」
「うふふ、ありがとう」

 そう言う海さんに、女性が嬉しそうにもたれかかり、エレベーターに乗り込む所がガラスを隔てた向こうからはっきりと見えた。

 綺麗なウェーブが描かれたブロンドに、青い瞳。
 スレンダーに見える体は凹凸のハッキリした体系だと、明るい色のスーツからでも判った。

 赤い口紅。
 それと同じ赤いマネキュアが塗られた長い指が海さんの肩に置かれる。

 少し離れた場所にいるカップルが2人を羨ましそうに見ていた。
 あんな美人さんに並んでも、海さんは見劣りすることなくお似合いだ。

 何か悪い夢でも見ているような気分で、私は海さんを見つめ続けた。

 2人の乗ったエレベーターが上へと上がって行くのが、段々と雲って見え難くなっていく・・・・・。

 それで初めて自分が泣いているのがわかった。

 ふと、下を向いた海さんが私に気付いたように、エレベーターのガラスに手をかけた時、私はバッグを掴んでホテルを飛び出した。
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