Addicted to you
 ちゃらら~~~ん♪

 あれから新しく買い換えた携帯の着メロが聞こえ、私は記憶の底から現実へと戻った。

 勤務先は三鷹の駅前で、もう勤務先のビルが見える。

「はい、もしもし。相沢です」
『あ、もしもし、果穂? 今、ドコ~?』

 電話の相手は同じ会社に勤務している同期の子だった。

「会社の前」
『あ、ホントに? 悪いんだけど支店長命令。今から司さん所に行って来てて。なんか、午後に大事な新規の大口客が来るらしくて、そのお客さん、本場の人なんだって。だから、支店長が果穂に頼めって言うのよ』
「うん、わかった。このまま、司さんの所に行っちゃってもいいの?」
『いいって』
「りょーかい」

 電話を切ると、体を回して来た道を戻り出す。

 司さん。
 本名は関 邦夫さん。
 紅茶好きが幸いして、自分で紅茶専門店を持っているほどの紅茶好き。
 ちなみに司とはそのお店の名前。

 本名で呼ばれるより、こう呼ばれる方が嬉しいらしい。

 大口客の中でも上位に入るぐらいのお金持ちで、空輸で紅茶の葉を運ばせるほど何より紅茶が大好きな顧客なんだけど、何故か私はこの司さんに異様に気に入られ、徹底的に美味しい紅茶の入れ方を覚えさせられた。

 以後、司さんの集金は私以外には渡さないという変わった方だった。

 すごく可愛がってもらっているので、それは嬉しいのだけど、いつも私が行くと最高級の美味しい紅茶の葉っぱを出して、私に紅茶を入れさせる。

 一度司さんの所に行くと2、3時間は離してもらえないが、大口顧客と言うこともあって、支店長の黙認となっている。

 もちろん、動かす金額が巨額だからなのだけど・・・。

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