Addicted to you
 コンコンとドアをノックし、少し間を置いてからドアを開ける。

「失礼します」

 トレイに乗った紅茶をこぼさないように、バランスを取りながらテーブルへと足を向け凍りついた。

「果穂・・・」

 私の体から、すべての体温が失われていく。
 息が上手く出来ない・・・・・・。

 見慣れたスーツ姿の海さんが、あのブロンドの美人と2人、ソファーに座っていた。

 どうして・・・。

 息も出来ないほど苦しい中、それだけが頭に浮かぶ。

 そして海さんが社長専属秘書である事、今日は新規の大口顧客が来ると聞いていたこと、座っている席の場所から、この美人なプロンドさんが、海さんの社長さんなのではないかと考えた。

 けれど、海さんがこの人とホテルのスウィートに行くのを見てしまった。
 それだけは変わらない事実。

 逃げ出したいのに、この震える足では立っているのだけで精一杯だった。
 そして、逃げ出したい気持ちとは別に、大人になって冷静に仕事をしろと頭の中のどこかで声がする。

「相沢君?」

 支店長の呼びかけに硬直が解かれる。
 今は勤務時間中だ。

 胸の痛みを押さえて、私はトレイをサイドテーブルに置いてカップを下げ、新しく入れた紅茶を置いていく。
 冷たくなった手が上手く動かなくて、何度もこぼしそうになったけれど失敗をすることはなかった。

 その間、3人の視線が痛かった。

 支店長は、海さんが私の下の名前を呼んだのか知りたいはずだし、ブロンドの美人さんは興味深々の表情を隠すことなく私を見ている。

 海さんは・・・。

 怖くて見られなかった。

 うわべだけの笑顔を張り付かせ、私は接客室を出た。
 機械的に給湯室に行き、カップを洗う。
 何かを考えたら涙がこぼれてしまいそうで、私はただひたすら仕事に没頭していった・・・。
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