Addicted to you
「海さん、おかえりなさい! お疲れ様でした」

 ドアのカギを開ける音が聞こえ、果穂は玄関へとすっ飛んでいった。

 今日1日、怪我もなく無事に帰ってきた事に感謝の気持ちを込めての"おかえりなさい"。
 そして、労わりの気持ちを込めた"お疲れ様"。

 最後に、最大級の好きな気持ちを込めて・・・・。

「ただいま」

 海は、そんな果穂にも表情を変えることなく、淡々と返事をするだけだった。
 そんな海の態度はいつもの事で、果穂はいそいそと食事の準備にキッチンへといく。

 社長のお供でしょっちゅう高級レストランに行く海の肥えた舌にも、果穂の料理は美味しい。
 素朴で、素材の味を最大限に生かした優しい料理。

「海さん、美味しい?」
「ああ、今日のスープは初めて食べるものだが、スパイスが効いて美味しい」
「そう、良かった」

 淡々と答えるだけだが、美味しいと言ってもらえた果穂は嬉しそうに微笑む。

 海は滅多に表情を変えることなく、冷静に淡々としたしゃべり方をする。
 時たま、子供のようにムキになって言い返したり、突然、素直に謝ったりして感情を表す事があって、そんな海に果穂はメロメロだった。

 優しいわけでもないが、冷たくもない態度。
 押しかけてきた果穂を、追い出すことなく自然に受け入れている。

 自然に、あるがままの態度をとる海に、果穂は素直に無邪気に振舞う事が出来た。

 1つしかない海のベットに入り込む果穂の為に海は端に寝ていて、当たり前のようにその横が空いている。



 果穂の寝る場所として空いている場所。



 そのスペースを見る度に、果穂は泣きたくなるような気持ちで、海の胸の中に入り込んで眠った。

 海の温かく、優しい体温。
 そして鼓動が、仕事で疲れた果穂の心を癒し活力の源となった。

 海への愛だけが、果穂のすべてだったのだ・・・。
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