Addicted to you
 レトロな洋館造りの家が会場だったのだけど、外は、内装に相応しい庭があった。

 貴志さんは私をベンチに座らせ、ボーイからシャンパンを受け取り、私に渡してくれた。

「祖父はずっと娘が欲しかったらしいんですよ。けれど生まれたのは息子で、さらに孫まで男・・・・、祖父はかなりがっかりしていたようです。ですが、貴女とお会いして、祖父は娘を持ったような気持ちになれたと言っていました。私も父もそのことで貴女には感謝しています・・・・・」

 そう言って口をつぐんでしまった貴志さんに、いったい何といわれるのか不安な気持ちのまま、シャンパンをひとくち口にふくんで貴志さんが話し出すのを待つ。

「・・・ですが、最近貴女の様子がおかしいのに、何も言ってもらえないと落ち込んでいました。祖父は貴女の悩みを話せるほど、貴女には近くないのですか?」

 貴志さんの言葉が、聞かれるだろうと予想していた事とは全然違う内容に、私は驚いたまま何も話せなくなってしまった。

 司さんはお客様で、私は私情をはさむことは許されない立場でもある。
 どんなに私が司さんを好きでも、踏み込んではいけない領域があるのは、それは司さんがお客様だからだ。

「司・・・関様は、とても大切なお客様で、私が司さ・・・関様をどんなに慕っていても、それは許されない立場にあります。そして、どんな事であれ、私は関様に心配をおかけしたくはないんです」
「祖父の事はいつもの通りの呼び方でもかまいませんよ。何度もいい間違えて、言いにくそうだ」
「す、すみません」

 私が謝ると、貴志さんはにっこりと微笑んだ。

「私の事は貴志と呼んで下さい。・・・貴女が祖父がお客で踏み込むことが出来ないと言うのなら、口座を解除するよう進言しておきましょう」
「え・・・、ええっ!!」
「そうすれば顧客関係ではなくなる。私にとって、貴女の立場より、祖父の悲しみの方が大事ですからね」

 何だかとんでもない話になってしまって焦る。
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