Addicted to you
 司さんは気前のいい大手顧客だ。
 口座を解除されてしまったら、うちは痛手を受けてしまう。

「もちろん、貴女の悩みを私に聞かせてくれるのならそんな事はしませんよ」

 泣きそうな顔をして貴志さんを見つめる私に、貴志さんはそう言って人の悪そうな笑みを浮かべた。

「・・・・・・」

 顧客は自分が客という立場を利用し、無理難題を押し付けることがある。

 しかし、これでは脅しだ。

 視線を真っ直ぐに貴志さんに合わせる。
 その瞳の奥には司さんと同じ優しい光が宿っていた。

 それと同時に、本質を見抜く目がなければ、こんな大きな会社をまとめていけるわけないと思う。
 それを確信させるような、鋭い光を貴志さんの瞳の中に見つけた。

 悩み・・・・。

 悩みなんて別にない。
 私は何も望んだりはしないから・・・・・。

 胸の痛みを感じながら、心の奥に沸きあがりそうな気持ちを抑える。

 過去は変えられないモノ。
 どんなに悲しくても、どんなに切なくても、私は何度も同じことを繰り返してしまう。

 私が愛する事が出来るのなら、自分ほど愛されなくてもいい。
 ただ、側にいて欲しいだけ・・・・・・。

 自分だけの側に。
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