Addicted to you
「何を悩んでいるのかと言われましても、悩みなんてありません。・・・あるとすれば悲しみだけなのかもしれません」
「悲しみ?」

 少し眉をひそめて聞き返す貴志さんに、上手く自分の気持ちを伝えられるかわからないけれど、素直に浮かんだ言葉を音に乗せた。

「そうです。ただ悲しいだけ・・・。私が物心ついた時には両親が亡くなり、祖母と2人きりの生活でした。父も母も親族関係には薄く、親族と言えるのはその祖母だけ、父方は縁を切られてから連絡を取ってなかったようです」
「自分から連絡をとってみようとは思わなかった?」

 誰でも考えるだろう貴志さんの言葉に首を振る。

「父方の親族の事は何も知らされてないんです。祖母は一所懸命私の面倒を見てくれましたが、とても厳格で厳しく、しかも感情に対し不器用な人でした。それでも、愛情がなかったわけでもありませんし、人間一人を育てるのがどれほど大変な事か判っているつもりです。だから、私は祖母にスキンシップなどを求めるのはやめました。苦手な事を求めたりするのは、相手にとって苦痛なだけだと知ったからです」

 祖母は私に常識と善悪の区別をきちんとつけられるだけの知識と、躾を教えてくれた。
 けして家族の愛情は教えてはくれなかったけれど・・・。

「人とは勝手なもの。求めれば求めるほど、それが手に入らなかった落胆が大きいものです。だったら初めから求めなければいいんです。そうすれば落胆する事もないですし・・・。だから、私は何に対しても期待や望みを持つことをやめたんです」
「それは思い込みですよ。たとえ何も望まなくても、何も手に入らない結果が出た時、人は少なからず落胆を感じるはず」
「いいえ、期待していないのです。落胆など感じることなどありません」
「では、貴女はそんな時何を感じるんです? 悲しみだけ? それとも虚しさ?」

 急にそんな事を聞かれて言葉につまる。
 そんな時、私が何を感じるのか・・・・。



 悲しみ?
 虚しさ?



 それもまったくないとは言えないかもしれない。

 でも、一番感じるのは・・・・・・・・・。
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