Addicted to you
「ただ・・・、悲しい気持ちになるだけです・・・」
「そして『ああ、やっぱり』と、思うのでしょう?」
「!」

 貴志さんの言葉に、心がズキリと痛む。

 確かに、手に入らなかった時、いつも、ああ、やっぱり・・・って思う自分がいるのを私は知っている。
 今の言葉に心が痛いのは、真実を言い当てられたから・・・。

「そう・・・です・・・」
「欲しいものを欲しいと思って望むのなら、手に入るまで諦めずに努力していれば、貴女の望んだ中のいくつかは貴女のものになったのでは? 努力もしないうちから諦めてしまうのは、あまり賢い生き方ではないと思いますよ」

 諭すように言われ、少し考えて見る。
 確かにそうかもしれない。

 欲しいものを駄々こねて欲しいと叫ぶような事は、やはりどうしても出来ない。

「貴女は、欲しいと思うものを手に入るまで足掻く、情熱がないのですね」
「・・・それを逃げているだけだと思いますか?」

 ふと貴志さんに聞いてみた。
 人によっては逃げているだけだと言うのかもしれないけれど、そんなつもりはなかった。

「いいえ、それも1つの個性でしょう。しつこいほど足掻く人がいて、逆に全然足掻かない人もいる。ただ、それだけのことなんでしょう。ですが・・・、いつか自分の意志とは反対に、足掻いてしまう時が貴女にくる事を私は祈っていますよ」

 それは、欲しいと駄々をこねてまで欲しくなるものが出来ると言う事?
 それほど望んでも手に入らず、無駄な願いになるかもしれないのに?

「それで、最近はどんな事で悲しいと思ったんです?」
「え?」
「悲しいと思ったから、最近元気がなかったのでしょう?」
「あ・・・」

 ふと、海さんの顔が浮かぶ。
 好きで、好きで、好きで・・・今もなお好きな人。

「・・・少し昔のことです。今までずっと生活が困難だった為に、私の生活はバイトと学校へ行く為の勉強が中心で、異性に対して興味を持つような事はありませんでした。祖母も亡くなり、家族が誰もいなくなってしまった時、友人の勧めで旅行に行ったんです。その時、初めて会った人に恋をしました」

 話しながらも、脳裏には鮮明にあの時のことが浮かぶ。

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