Addicted to you
 どうして恋に落ちたのかは、まったくわからない。
 はっきりとはわからないながらも、一瞬で世界が変わった。
 あの人だから初めて恋をしたのかもしれない。

「初めて誰かの側にいたいって思いました。・・・思えば、初めてそう望んだように思います。あの人はありのままの私を受け入れるような人で、好きになってもらえなくても良かった。ただ、傍にいさせてもらえるならそれだけで満足でした。あの人の前で私がありのままの自分でいられるように、あの人も私の前で、ありのままの自分でいてくれたら、それ以上の幸せはないと思ったんです」

 幸せしかなかったあの頃。
 私は初めての恋に舞い上がり、尽くすだけだった。

 海さんが何を思い、何を望んでいたか考えたことがあっただろうか?

 独りよがりの子供の恋だったと、今ならわかる。

「でも・・・。あの人には別の女性がいて、その人がいるのにあの人の側にはいられないと、あの人の前から消えたんです。けど、もしかしたら、その女性は何の関係もなかったかもしれなくて・・・、あの人にちゃんと話も聞かずに飛び出してしまったから・・・」
「だからちゃんと話を聞きたいと?」

 一瞬言葉を閉じてしまった私に、貴志さんが口を開いた。

 しかし、その言葉は間違っている。
 私は海さんと一緒にいる女性を勝手に恋人だと思い、衝動的に唯一の連絡先だった携帯を捨てたのだ。

 幼い衝動と、人を信じていなかった自分の心が私の心をえぐる。

 あの人は野心家ではあったけれど、ひどく不器用で、私と関係がありながら他の女性と関係を持つような人ではなかったと、今ならはっきりと断言出来た。
 でも、今では遅いのだ。

 私は海さんに何も話す機会を与えることなく、拒絶した。
 話を聞いてから判断するべきだったのに・・・・・・。

 その時の私はひどく身勝手だったのだ。

「いいえ」

 私は貴志さんに質問に首を振った。

 まっすぐに向き合えなかった恋が、ただ悲しいだけ・・・。
 海さんを好きだと想う気持ちと、悲しさだけで私の中はいっぱいでこれ以上は何も入らない。

 それだけがすべて・・・。

< 33 / 42 >

この作品をシェア

pagetop